竜と剣

創作ものを書いていくかも

幸せな男2

前回

 

男はゆっくりと指を動かし、手を動かし、足首を回してみた。

入念にひとつひとつの動作を、自動車の点検のようにゆっくりと確実に行っていく。

痛みはなく、事故の傷跡のようなものもないようだ。

透明な液体に浸された光る自分の身体。赤ん坊のように丸い姿勢である。

 

”なんだこれは?”

 

次にゆっくりと手足を伸ばしてみる。ぶよぶよとした感触がある”膜”のようなものに触れた。

不思議と窮屈さは感じずにいたが、永遠にこのままの状態でいることにもできない。

なによりも自分の理解を超えた光景に好奇心が疼いてしまう。

 

膜に指先をあて、膜に爪を立てるようにゆっくりと押してみる。

突然に、音もなく自分を満たしていた液体が失われていく。

少々驚いたのち、”膜”が破れたのだろうと気付いた。

自然と溺れるように足掻いてしまうが、じきに液体が減っていくに従って落ち着きを取り戻していく。肺に溜まっていたであろう液体を吐き出す時には、予想していたような苦しさや痛みは一切なかったが、今度はしなびた膜を手足で取り払う。

周囲には無数の球根があり、這い出した膜を振り返るとそこには大きく穴が空いてしまいしなびたようにも見える球根があった。

ここで初めて男は自身の肉体もその球根に包まれていたことに気が付く。

 

「なんだこれは…」

 

今度は声にしてみる。思いのほか大きく響いた声に自分自身が驚き、不用意に声を挙げたことに、つい不安になってしまう。

身構えてから5分以上は経っただろうか…しかし、応えるものはないようだ。