竜と剣

創作ものを書いていくかも

幸せな男1

その男は何不自由なく暮らしている。

美しい妻、賢い息子と娘。バランスよく充実した仕事と余暇。

何もかもが充実している。不足はない。

 

男は善良であり、貧しい国の人々を憐み、実際に寄付をすることも多かった。

社会に貢献し、人生を謳歌し、世界が少しでもよくなるようにと努力を続けていた。

 

男が事故に遭ったのは、ある日のことだった。

会社からの帰り道でバスの前にサッカーボールが転がりだしていて、小学生くらいの男の子が飛び出していた。

善良で幸せな男は躊躇なく男の子を突き飛ばし、自分が犠牲になることを選んだのだ。

 

幸せな人生であったと思う。なんの後悔もない。妻と子供たちのことを思うと寂しいが遺産も充分残せていたし、生命保険にも入っていた、何よりも未来ある子供を1人救って人生が終わることについて、自身が納得していた。

 

男が目を開くとそこには眩い景色が広がっていた。

自分が何かどろりとした液体に浸されていることに気付き慌てたが、呼吸はふつうにできているようだ。少し落ち着いて目の前の風景に注意を払ってみると、膝を抱えた人1人が収まる程度の大きさの球根のような物体が無数に広がっている。光がそれぞれの球根から発せられていることに気が付いた。次に自身の四肢からも光が溢れていることに気が付いた。

 

つづく